大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和55年(ネ)2566号 判決

控訴人

吉松敏宏

被控訴人

右代表者法務大臣

奥野誠亮

右指定代理人

東松文雄

石川利夫

主文

原判決を取り消す。

控訴人の本件訴えを却下する。

訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決を取り消す。被控訴人は控訴人に対し金一〇〇万円を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、援用及び認否は、控訴人において、「控訴人は、約一八年間にわたり、主として社交場等のピアノ弾き語りを職業としていたが、たばこの公害のため全職場の少なくとも五〇パーセントを放棄せざるを得なくなり、一日の給与を一万五〇〇〇円、一か月の労働日数を二五日として算定した一八年間の得べかりし収入四、〇五〇万円、たばこの公害による精神的及び肉体的損害一日各五〇〇円として算定した一八年間の各二七〇万円、慰藉料額四、五九〇万円、以上合計九、一八〇万円のうち金一〇〇万円の支払を求める。」と述べ〈証拠省略〉。

理由

職権によつて調査するのに、控訴人の本訴請求は、要するに、日本専売公社総裁が国の専売事業の実施として人体に有害なたばこを製造、販売したことにより、控訴人が被つた損害の賠償を被控訴人国に対して請求するものである。しかし、たばこの製造、販売等の業務は、かつて、国の直轄事業として国の特別会計によつて経営されてきたが、日本専売公社法(昭和二三年法律第二五五号)は、国から独立した「公法上の法人」(二条参照)たる日本専売公社を設立し、該企業体をして、これを、国の監督のもとに、独占的に、且つ、独立採算制をもつて経営させることとしている(第一章参照)。したがつて、たばこの製造・販売に関するものである以上、本件のごとくそれによつて他人に与えた損害の賠償に関するものであつても、専ら、国とは別個独立の法人たる公社がその責任を負担すべきものであり、仮に、かかる不法行為の主体を、控訴人主張のごとく、公社を代表しその業務を総理する総裁と把握するにしても、公社法八条によつて準用される民法四四条の規定により、これが賠償責任は公社が負うべきこととなるのである。

それ故、国を相手方とする控訴人の本訴請求は、被告適格を誤つた不適法なものであり、これを適法な訴えとしたうえで本案の審理を遂げて請求を棄却した原判決は、失当であるから民訴法三八六条によりこれを取り消して控訴人の本件訴えを却下し、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(渡部吉隆 浅香恒久 安國種彦)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例